
当院の動脈管開存症の手術実績
動脈管開存症は、胎生期に重要な役割を果たしている動脈管(大動脈と肺動脈を結ぶ血管)が 生後においても閉鎖せず開存しているためにおこる疾患で、犬では最も多い先天性心疾(30%)です。
好発犬種としては、マルチーズ、ポメラニアン、ミニチュアダックスフンド、トイプードル、ヨークシャーテリアなどがあげられます。
生後動脈管が開存したままの状態では、圧の高 い大動脈から動脈管を経て圧の低い肺動脈に流入した血液が肺に流入するため肺の血流が増加し、その結果、左心系に流入する血液量が増加し(左心系の容量負荷)、 左心不全が発現します。動脈管の開存が大きい症例では早期に死亡する可能性が高くなります。動脈管開存症の治療に対しては、主に心臓外科(開胸)治療、カテーテ ル治療の2通りの治療法があります。 症例の年齢や大きさによって治療法を選択し、大動脈から肺動脈への短絡血流を止める目的の処置を行ないます。
今回は当院のPDAの心臓外科治療(開胸手術)の実績を報告致します。
診断には視診、触診、聴診、レントゲン検査、超音波検査、心血管造影検査等を行ないます。
聴診では特徴的な連続性の雑音を聴取でき、股動脈はまた脈が跳ねるような反跳脈(バウンディングパルス)が触知されます。
レントゲン検査では左房および左室の容量負荷による心拡大が認められ、肺循環の血流増大により肺野の血管陰影の増強が認められます。短絡血流が非常に多い場合、左心不全から肺水腫を呈することもあります。
超音波検査では左心負荷所見が確認されます。右傍胸骨短軸像大動脈弁レベルでは主肺動脈に動脈管を介した短絡血流が認められ、連続波ドップラでは連続性波形が認められます。
治療
開胸下の外科的治療方法の結紮術には、直接法、ジャクソン法、ヘモクリップ法などがります。
直接法は動脈管を露出させる必要があり、動脈管は肺動脈付着部下壁が危弱化していることが多く、この部位を損傷してしまうと大出血につながる危険性が高い方法のため、当院ではジャクソン法またはヘモクリップ法で動脈管の閉鎖を行なっています。
●ジャクソン法を行なった症例
●ヘモクリップを使用した症例
PDAは外科手術により根治できる先天性心疾患です。短絡血流量にもよりますが、早めに治療を行なわないと血管がもろくなり、手術のリスクが高くなります。
PDAは速やかに診断し、治療を行なうことが重要であると考えられます。